進行状況
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春の終わり、港町に強い風が吹いた。 風は丘の上の古い桜の木を揺らし、一本の枝を折った。 折れた枝は近くの電線に引っかかり、その日の夕方、町の一角が停電した。
停電したのはたった三十分だったが、その間、商店街の時計店の主人は店じまいを早めることにした。
帰宅途中、主人は普段通らない裏道を歩いた。 そこで、溝におちて登れなくなっている一匹の子猫を見つけた。
主人は子猫を助け、自宅へ連れて帰った。
子猫は黒猫で前足の先だけ白かった、主人はとりあえず「たび」と名付けた。
たびは思いのほか人懐こく、時計店の主人はそのまま飼うことにした。 数週間後、たびは店にも連れて来られるようになった。
黒猫が店先で昼寝をする時計店は、いつしか商店街の小さな名物になった。 ある日、港に寄港した若い写真家が、その姿を気に入り、たびの写真を撮った。
写真家は旅の記録としてその写真を雑誌に投稿した。 掲載された記事の片隅に写る「猫のいる時計店」は、なぜか読者の目を引いた。 その中に、都会で働く女性がいた。
女性は幼い頃、この港町で暮らしていたが、家族の事情で引っ越して以来、一度も戻っていなかった。
記事の背景に写る時計店の看板を見て、彼女は懐かしさに胸を打たれた。
そして夏休みに、有給休暇を使って二十年ぶりに町を訪れた。
女性は時計店に立ち寄り、たびを撫でながら主人と話をした。
話の流れで、主人は「最近、店の二階を片付けていたら古い手帳が出てきてね」と言った。
その手帳は前の店主、つまり主人の父が残したものだった。
女性は何気なくページをめくり、ある名前を見て驚いた。
そこには、彼女が長年探していた祖父の名前が記されていた。